2016年8月18日木曜日

同人誌の感想:くらら『きらきらひかる、』『恋するそのコに恋するあのコ』『そして雷鳴。』

「オーディションのとき、あかりちゃんがアイドルに見えたのはね、目が離せない光があったからだと思う。アイドルの光!」
「アイドルの、光……」
「私が美月さんに感じたような光。きっと、あかりちゃんが私に感じたような光!」
「そんな光が、私に?」
「うん!私には見えたよ!あんな風に、目が離せないアイドル初めてだった!あかりちゃんは、あたふたしてたけど一生懸命だったよね!」
「……あっ」
「ちいさな光でも、あかりちゃんの光り方で光ってた!うん!それが、あかりちゃんを合格にした理由!」
(アイカツ!第77話「目指してるスター☆彡」)

劇場版アイカツスターズ!の感想を書いて気持ちに勢いがついたので、最近読んだ同人誌の話。
アイカツ!のまつユウあかを中心にした三部作について。内容ネタバレです。

くらら『きらきらひかる、:Twinkle, Twinkle, Little Star』BiRke、2015(芸能人はカードが命!6)
くらら『恋するそのコに恋するあのコ』BiRke、2015(芸能人はカードが命!7)
くらら『そして雷鳴。』BiRke、2015(芸能人はカードが命!8)

あらすじ:スターライト学園のアイドル服部ユウは、クラスメイトで元ルームメイトの大空あかりのかがやきからトレーニング中も授業中も目を離すことができない。現ルームメイトの長谷川まつりは、そんな彼女の視線の先に気づいており、あかりに左右されるユウの表情を見守っている。
自分と別室になってから新しいアイカツの仲間たちと活躍し、かがやきを増していくあかりにユウは戸惑い、言い表せない感情を抱く。ひなき、スミレと三人でステージに立って喝采を浴びるあかりを観ながら、その感情を「嫉妬」と名付けようとしたとき、まつりに「恋する乙女の顔してたよ/…ほんとに好きなんだね、あかりちゃんのこと」と指摘され、自分が出会ったときからあかりに恋をしていたことを自覚する。まつりは「今さら遅い」と泣き出すユウの肩を抱いて「まだまだこれからだよ」と慰める。自分自身のユウへの恋を隠しながら。(『きらきらひかる、』)
恋を自覚したユウは、あかりから逃れるように地方への留学や遠征を繰り返す。学園の寮に帰った早々、ユウはあかりが後輩の天羽まどかとユニット(スキップス)を組んだことをまつりから知らされる。ショックを受けたユウは再会したあかりに「ユニット結成おめでとう」と言うことができない。あかりとまどかの手首のお揃いのブレスレットを見たユウは、すぐにエトワール学園への留学を決める。
ユウとともにアイカツ!オフィシャルショップのサポーターを務める姫桜女学院の藤原みやびは、遠征先の楽屋で会話したユウの様子がおかしいことに気づく。みやびはユウにスターライト学園で開催されるユニットカップに出場することを勧めるが、学園に帰りたくないユウは答えを保留する。
まつりはユウの留学先の寮を訪れ、みやびと同じく、ユウがスターライトに戻りユニットカップに出ることを勧める。帰りたくない理由を「スキップスのこと」だと指摘されたユウは感情を吐露して泣き始める。「まつりちゃんに何がわかるの?/ほんとに好きなら/その人の成功を喜ばなきゃいけないのに/こんな気持ち/ぜんぜん違う/自分勝手でいやになる…」
まつりはユウにキスをして、ユウへの気持ちを打ち明ける。「だってユウちゃん、好きをいけないことだと思ってるでしょ/確かに好きは自分勝手でわがままできれいでもないし/どうしようもないけど/なによりも強いの」まつりの言葉によって、ユウはあかりへの気持ちに向き合う勇気を与えられる。まつりはユウに、気持ちをあかりに伝えることを提案する。ユウとまつりは学園に帰り、二人でユニットカップに出場する。
ユニットカップ後、ユウはソロステージのチケットをあかりに渡す。「ステージからあかりちゃんのこと/見つけてみせるよ!/私の気持ち全部、伝わるって信じて歌うから」
当日、あかりは会場中を盛り上げるユウのステージに心を動かされ、自分の知らないユウのアイカツを思う。ライブ終了間際、ユウは客席のあかりを指さし、マイクを手のひらで遮断して「だいすき」とつぶやく。あかりはその意味を悟り赤面する。(『恋するそのコに恋するあのコ』)
その後、ユウとまつりはスターライトでそれ以前と同じ日々を過ごしていた。
走りこみ中に夕立ちに遭ったユウは、中庭の東屋に飛び込む。そこにはあかりが先客として雨宿りをしていた。
あかりはユウのライブを賞賛し、ユウが歌にのせた気持ちを受け取ったとを伝える。そして、あのとき指さして言った言葉を問う。ユウは意を決して「だいすき」という言葉を繰り返す。あかりはその言葉を想定していたこと、しかしその気持ちには答えられないことを話す。ユウは返答を貰えたことに感謝の言葉を述べる。
雨上がり、ユウは東屋で一人佇んでいる。虚無感を覚えるユウは再び降りだした雨と、雷鳴の音で、まつりがユニット名を考えた二人のユニット「サンダーボルト」を思い出す。
自分たちの部屋に戻ったユウはまつりに「あかりちゃんにふられちゃったよ」と告げる。自分の責任だと泣くまつりに、ユウは自分が後悔していないこと、気持ちを伝えることができたのはまつりのおかげだと言う。
ユウの「サンダーボルト、これからもがんばろうね」という言葉にまつりは驚く。ユウはまつりの気持ちに応えられるかまだわからないが、これからもユニットとして頑張っていきたいという気持ちを素直に話す。まつりは笑顔で頷く。(『そして雷鳴。』)

完全にすばらしい同人誌です。ブラボー。
この三作品は私のなかのアイカツ!正史に刻み込まれました。

すばらしいところはたくさんある(ユウ・まつり・あかりの三人がみずみずしく、あざやかに描かれていること。リリカルなモノローグや台詞が、心を揺さぶるところ。プロットと感情の動きを表現する漫画の技術がすごいこと。演出が格好良くて、読んでるこちらまでユウちゃんやまつりちゃんの目を通して、あかりちゃん・ユウちゃんに恋をさせられる。服部ユウというアイドルの、アニメでは描かれなかった可能性についてよく考えられていること)けれど、私がとりわけ「すごい!」と思ったのは、この三部作がアニメ・アイカツ!では描かれない感情(恋)について、それを「アイカツ!」で描かれ続けてきたこと=「アイドルのかがやき」に連なるもの、地続きのものとして描いているように見えることです。

これは恋の話であると同時にアイドルの話。アイドルとは何か、「アイドルのかがやき」とはどういうことなのかについての話でもある。

『きらきらひかる、』冒頭、ユウちゃんは夢のなかで「きらきらひかる小さな星よ/あなたは一体何者なの?」と問いかける。目覚めたユウちゃんはあかりちゃんに会うため、そのかがやきを見るために、タイミングを見計らって早朝自主練に出るけれど、まだ自分があかりちゃんの光を追う理由には気づいてないし、説明もできない。
ランニング中も、授業中も、ステージの上でも、あかりちゃんはユウちゃんの視界の中でかがやいている。
ユウちゃんが追いかけるあかりちゃんのかがやきは一体どこから来るのか?それが、直接には説明されてないけれど、この作品のなかで重要なことと思える。
かがやいている人自身のがんばりから?その人の仕事から?
もちろん。でも、たぶんそれ以上に大切なことがある。
ある人のかがやきは、それを見る人の視線の中でこそ生まれるということだ。
そのヒントは随所に描きこまれている。
早朝に自主練中のあかりちゃんに挨拶するユウちゃんの顔から首元までが、3コマに分割されて描かれる箇所。1コマ目から順に背景が暗くなっていき、ベタ塗りの3コマ目で肩の近くに光(☆)が描かれる。ここではまだこの光の正体は明らかにされない。
次に光が描かれるのは、3ページ後の授業中のあかりちゃんの横顔のコマ。どうやら光っているのはあかりちゃんだということがわかる。続くコマでノートを取るあかりちゃんの手元と光が描かれ、その次のコマで先の2コマの光景を見ているのがユウちゃんであることが描かれる。この3コマ目にもこぼれ落ちる光。
次のページ。あかりちゃんは講師のジョニー先生に指されて起立し、ロマンスヒロインアピールの経験を語る。同ページ3コマ目で、隣の席からあかりちゃんを見上げるユウの瞳から光る星がこぼれ落ちる。
ここが勘所だと思う。あかりちゃんが光っている、かがやいているのはユウちゃんの視界のなかでだということ、そしてその光はユウちゃんの瞳から溢れていること。
その5ページ後から始まるあかりちゃんたちのステージでも、あかりちゃんを中心にしてたくさんの光が描かれる。光はあかりちゃんを光源として、空間にばらまかれているようにも見える。だけどそれはすべてユウちゃんの見ている空間、ユウちゃんの視界の中での出来事だ。あかりちゃんを羨望の眼差しで見るユウちゃんの瞳にもいくつもの星が描かれる。それはステージのあかりちゃんのかがやきを反映しているようにも見えるし、ユウちゃん自身の瞳がチカチカと光りかがやいているようにも見える。

誰かが誰かに恋をすること、あるいは、アイドルとして憧れること(アイカツ!においてこの二つは親しい、「恋みたいな気持ち」として語られる)。
それはその人を光りかがやくものとして見出すことだ。
光を見ている人は、その光が相手に属するものだと感じるけれど、本当はその光は客観的な対象としてどこかに存在するのではなく、それを見ている人の視界の中にしかない。光は、それを見出すそのときに、見出したその人のなかで生まれる。だから、アイドルのオーラ/光/かがやきは、「感じ」られるものなのだ。

誰の言葉だったか忘れたけど、「君が誰かを愛するとき、その人を愛する理由一切を言葉で説明できるようにしなくてはならない。しかし、私が君が語る理由すべてに同意するとしても、私がその人を愛するかは別の話だ」というような言葉がある。
誰かを愛するとき、その人を魅力あるものとして感じるとき、その理由を説明することができても、自分が感じるその魅力そのもの、愛そのものは決して他の人に伝えることはできない。愛される人は、愛する人の世界の中でのみ、その人として現れる。

ユウちゃんはそのようなものとしてあかりちゃんを見た。
ユウちゃんは「きらきらひかる小さな星」としてあかりちゃんを見る。
「あなたは何者なの?」しかしその答えは与えられない。その答えを自分の見ている視界の中から探しだすことはできない。なぜなら、その光は視界そのものの中から生まれるのだから。何者と問うその人自身の中から謎としての光/恋は生まれる。

それはアイドル(のかがやき)も同じだ。アイドルは、ひとりではアイドルになることはできない。その人をアイドルとして見出す誰かの視界の中でこそ、アイドルとしてかがやくことができるのだ。視界の中のアイドルは、自ら光を放つものとして見られる。
この三部作で語られたのは、こういった恋愛観=アイドル観だと思う。これはアニメ・アイカツ!の世界に連なるものであり、それに新たな光を照らすものだ。

「だって恋してるユウちゃんが私、好きなの/知らないかもしれないけど、とってもきらきらして可愛いんだよ」(『恋するそのコに恋するあのコ』)
「ステージで輝くユウちゃんは眩しくって目がくらむ」(『そして雷鳴。』)

ユウちゃんに恋をするまつりちゃんは、自分がユウちゃんのかがやきを見ているがために、ユウちゃんがあかりちゃんに見出す光がその瞳からこぼれ出すのを見ることができる。それゆえ一層、まつりちゃんはユウちゃんから目を離すことができない。

「あかりちゃんはもっと高い空の彼方を見てる/ただひたすらに昇っていく星/だから見惚れた/憧れた」(『そして雷鳴。』)

ユウちゃんもまた、あかりちゃんの視線の先(星宮いちご)を意識している。星宮いちごをアイドルとして見ている、その光を追いかけるあかりちゃんの目からこぼれる光にこそ、彼女は恋している。

これってまさしくSHINING LINE*じゃないでしょうか。

神崎美月がマスカレードに憧れるということ。マスカレードに憧れる神崎美月に、星宮いちごが憧れること。神崎美月に憧れる星宮いちごに、大空あかりが憧れること。
憧れが与えるのは楽しいことばかりじゃないけれど、憧れる日々の中でこそ世界は光りかがやく。

「なりたい人になろうと頑張る毎日は、とても楽しかったから。素敵な先輩方のように、わたくしもなりたかったから。だから今、緊張していてもアイカツがとても楽しいのです」(アイカツ!第124話「クイーンの花」)

アイカツ!とはアイドルとはそのようなものである、というのが私が『きらきらひかる、』『恋するそのコに恋するあのコ』『そして雷鳴。』の三作品から感じたことです。
多分、私もきっとあかりちゃんたちにこういった恋をしてしまったのでしょう。
私がアイカツ!に強く惹きつけられたのは、第133話「ハローニューワールド」がきっかけでした。そこではおばあちゃんのドレスに恋する天羽まどかちゃんの姿が描かれていました。おばあちゃんのAngely Sugarのドレスに恋するあまり、おばあちゃんのドレスへの強い想いを知るあまり、自分がそれにふさわしくないと感じてもがき、少しでもふさわしい自分になろうと努力するまどかちゃんは、美しいと思いました。
きっと、私はアイカツ!に登場するアイドルたちの、こういうところが好きなのだと思います。
そのことに改めて気づかせてくれたこと、こんなすてきなユウちゃんの漫画を読ませていただいたことに深く感謝します。

今回紹介した三作品はすべて、作者のくららさんのBoothでDLすることができます。私もDL版で購読させていただきました。作品名、サークル名で検索してみてください。